世界最大級の時計見本市 『バーゼルワールド』と『ジュネーブサロン』がスイスで4月に開催され、先月後半から時計雑誌はもちろんファッション雑誌や情報誌に各ブランドの新作が美しい写真とともにリポートされ出し、時計好きとしては買える訳でもないのにショーモデルに心を時めかす毎日。
最近クルマが売れないという話をよく聞く。それは分かる気がする。消費動向云々より魅力的なクルマがちっとも出てこない。モーターショーを見に行っても、そこにはワクワクするものはなにもなく、巨大なディーラーショールームとしか感じられない。どんなにエコなクルマが出てきても、夢に出てくるような魅力は感じられない。
でも時計業界は違う。年々そのブランド力を高めとんでもない事態になってる。挑戦的で革新的で暴力的なほど魅力的なモデルを次々に発表している。
機械式時計は元々がエコな製品だから、温暖化も環境問題もへったくれもない。とにかくメカニズムの暴走といえるほど。トゥールビヨンが平気で発表されたりと、訳がわからないほど活気づいている(ちなみにトゥールビヨン搭載モデルの価格は1千万円以上)。二つのショーの新作を見ていると100万円くらいのモデルは安く感じる錯覚に陥るほど感覚が麻痺してくる。
キャリバー(ムーブメント)はどこ製だ?、ケースの素材はなんだ?、テンプの振動数は?・・・メカニカルな話に多いに盛り上がったりする。考えてみればちょっと前のクルマはそうだった。DOHCだ、ターボだ、300馬力だ、最高速はいくつだ?なんて話で激論になったりした。ブルーバードvsコロナ、スカイラインvsマークII、GT-RvsスープラvsRX-7・・・・
我々はそれを『戦争』と呼んで、飲み屋でも熱く激論を交わした。高性能を競い合い、最高馬力、最高速度にしのぎを削った。日産党、マツダ党といったように自分は『党員』であって、自分が乗っているクルマは『党首』だった。言ってみればメーカーの代理戦争にワクワクしていた。
エコや環境は大切だしとてもいいことだと思う。しかし、それによってクルマは牙をとられ爪を剥がされ角を抜かれてしまった。「俺のはリッター○kmも走るんだぜ!」と言った話題では、むなぐら掴んで喧嘩をする気にもなれない。
ワクワクするモノって、どこか悪で不良の方が魅力的だ。ちょっとくらい生意気な方が応援したくなる。クルマは優等生になりすぎた。だからこそ機械式時計の過剰なまでのメカニカル合戦に人々は魅了されるのではないか。
機械好きにとって今、腕時計は最高の戦場だ。
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