切り裂きジャック

今日、サングラスのフレームがちょっと歪んでしまったので新宿のお店に直しに行った。原宿から山手線に乗り新宿で降りる。東口の自動改札を出たら
「ちょっと」
声をかけられた。振り返ると完全防備の警官が立っていた。胸には防弾チョッキ。手足にはプロテクターまで付けている。
「ちょっといいですか」
なにがいいんだろうと思いながら立ち止まった。すかさずもう一人の警官が背後に立った。明らかに逃亡を防ぐための無言の威圧を発している。
「なにか？」
訝しげに聞き返した。
「ちょっと荷物を検査していいですか」
警官の優しく言ったが目は笑っていない。両手は防御の態勢に構えているのが明らかに分かる。
「なんで？」
かなり不機嫌な口調でまた聞き返した。明らかにこの警官二人は自分のことを危険な人物と勘違いしている。
「最近新宿でも色々な事件があるものですから」
警官は据えるような目で言った。

「色々な事件？自分はどんな関係があるというんだ」
この警官二人は自分に敵意を示している。なんだこの警官は。滅多に怒らない自分もこの時ばかりは血が逆流する音が聞こえた。（うそ、年中怒ってる）
「ナイフを持ってウロウロしてる連中が多いんですよ」
警官はにべもなく言った。
「ちょっと待てよ。俺がナイフ持ってるって言いたいわけ？」
怒鳴るように警官をにらみつけた。俺はJack the Ripper か。通行人が振り返る。
「いや、我々も仕事ですから」
「おいおい、仕事と関係ないだろ。なんでって理由を聞いているんだ」
「男性一人で歩いてる人にみな職務質問してるんですよ。仕事ですから」
新宿の改札出たすぐのところで男性一人歩きに片っ端から職務質問？あまりに幼稚な解答に吐き気すらした。何万人と乗降する新宿駅で職務質問とは、えらい災難な日だ。
「ちょっとおかしいんじゃないか、男一人なんかそこら中にいるだろ！」
「いやいや、我々も仕事ですから」
こいつらウソが下手すぎだ。ナイフだの固有名詞を出す必要も無ければ、男性一人なんて見えすいた言い訳が、結局「おまえが怪しい」と言ってるのと同じ事だということ理解してない。
「これからどちらへ」
「メガネの修理だよ」
「カバンのなか開けてもらえますか」
「だからメガネの修理って言ってるだろ」
「いやいや、我々も仕事ですから」
なにがいやいやだ。いかにも体育会系の屈強な体格。新宿の東口を警備する警官だ。体力も腕力も生え抜きだろう。警官相手に大騒ぎして執行妨害とか取られたら目も当てられない。渋々カバンの中を見せる。
「なにも入ってないだろうが！」
精一杯いやみたらしく警官に毒づいた。
「ボディーチェックさせてもらいますよ」
Ｔシャツ一枚の男捕まえてボディーチェック？ この警官かなりの確率で人を容疑者扱いしてる。オウムの信者にでも見えたのか、それともビンラディンが変装でもしてると思ったのか。
「なにもないよ」
「ポケットは？」
飛び無しナイフでも持っていると思っているようだ。もし、シャカシャカシャカとバタフライナイフでも踵から取り出したらどうなるだろう。
「この中は？」
「財布だよ」
「ちょっといいですか」
「おい、財布までチェックするのか？！」
「他になにか入ってないか見るだけです」
ベルト型のサイドバッグの蓋を開け財布を見せる。財布まで取り出すようだった、いくらなんでも職権乱用だ。出るとこ出ようとこちらも身構える。
「もう一人の警官がハーレーの鍵を中から取り出す。
「鍵だよ、鍵！」
思い切り不機嫌に吐き捨てた。
ジャラジャラと鍵を引き抜く。ハーレーの警報機用のリモコンボタンと一緒に、スペシューム光線を打つポーズをとったウルトラマンのキーホルダーが出てくる。ウルトラマンを見た警官の動きが一瞬止まった。
「いい加減にしてくれ。もっと他に怪しいヤツいっぱい居るだろう。他を当たってくれ！」
「我々も仕事ですから」
ハリウッド映画のようにツバでも顔に吐き付けたかったけど、
「ふざけんな」
と小声で警官の耳元でいい、押しのけて眼鏡屋に向かった。ウルトラマンの効果はちょっとあったようだ。（？）
なんかそれから一日腹が立ってなにも手に付かなかった。ナイフを持って人を刺すように見えたのか？　職務質問も立派な仕事だろうが、ものには言い方がある。いくら屈強な体を持っていても脳味噌まで筋肉じゃダメでしょ。
モデルガンでもカバンの中に入れていたらどんな反応を示したんだろう。間違って撃たれちゃうんだろうな。誤射だけど正当防衛は妥当な判断だったとか記者発表されて。
石原都知事を筆頭に新宿を安全な街にとクリーンナップ作戦を色々やっているようだが、武装警官がゴロゴロいて善良な一般市民に不当なボディーチェックをする暇あったら、新宿にウジャウジャ居る中国人マフィアや韓国人マフィアを取り締まれっていうんだ。
ん、もしかして北朝鮮の麻薬密売人に思われた？